キル

観てきました。

野田地図『キル』
演出:野田秀樹/ @シアターコクーン
出演:妻夫木聡広末涼子勝村政信、高田聖子、山田まりや、村岡希美市川しんぺー中山祐一朗小林勝也高橋恵子野田秀樹

モンゴルを舞台にジンギスカンの戦いをファッション戦争に見立てて、タイトルの「キル」を、着る、切る、斬る、Kill、生キル、と幾通りの意味と絡めて進むストーリー。今回も野田さんのめまぐるしい言葉遊びに目をまわしつつも、訴えてかけてくる言葉に心臓をじんじんさせながら観ていました。セットもとてもすてきで、舞台の中心にあるくぼんだ部分からのしのしと這い上がってきたり、反対にそこへ消えて行ったりと、モンゴルの広大な地を表現したユニークな方法に最後まで驚きっぱなしでした。役者さんたちもベテラン陣たちの安定感はもちろんのこと、あんまり良い評判を聞いていなかった主演の妻夫木くんも広末さんも素晴らしかった!妻夫木くんの声なんて枯れててもいいの!そんなことより主役としてのオーラを堂々と身にまとって演じきっていることが、かっこよくて魅力的なのだから。広末さんも、あんな華奢な身体の一体どこから?と不思議なほど、叫んだり走り回ったりして観るものを魅了してました。透明感がとんでもない。同じ人間と思えない。そして腹筋が6つに割れてた・・・。すごい。美は一日にしてならない、ならないんだよ。(for自分)
私は野田さんのお芝居のカーテンコールにめっぽう弱く、いつもだーだー泣いてしまう。役者さんたちの一番きらきらした顔がみられる瞬間はまるで奇跡に思えてしまうほど美しい。今回は千秋楽とあって、スタンディングオベーションの割れんばかりの拍手の中、客席へ何度も出てきてくれたので、私の涙も自然と3割増しに。数字の3みたいな目になりかけて劇場を出た。はー、おもしろかった!

ちなみに今回のチケット、DM先行も併せて6回も申し込んだのに1回も取れませんでした。結局、知り合いにチケットを取ってもらったら前から6列目のセンター、いわゆる関係者席というやつで、そりゃあもうよく見えたわけですが、・・・なんとも複雑な気持ち。楽しんでおいてこういうのもアレなんですが、もうちょっと本当に観たい人、がんばってチケットを取ろうとしている人もなんとかならないものかー・・・と思ってしまう。


私は、大風呂敷を広げて、大嘘をまことしなやかに作り上げることに、全身全霊を傾ける類いの作り手だ。「富士山を太平洋にブン投げたい」し、「紅葉の葉脈の小さな迷路に迷い込んだり」「朝の光をむしゃむしゃ食べる」ようなことが、作家の書くべきことだと思っている一派の人間である。(中略)そこに、たったひとつの言葉とちいさなスペイスがあれば、たった一人の人間が、その小さな足の裏で、「火星を踏み潰す」こともできる。それが劇場の素晴らしさだと、私は確信している。そして今宵はこの劇場で、行ったこともない「モンゴルの草原の熱い風と光の中に」人々を誘うことが、この世に少なくなってきた大法螺吹きの役目だと思っている。

野田さんのこうゆうところが大好きだ。私はこれからも、大真面目なほら吹きがつくる世界を泣いたり笑ったりしながらずっと観ていきたい。